米津玄師 2016 TOUR 『音楽隊』@豊洲PIT 2.12

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ツアー『音楽隊』を通して、米津玄師が伝えたかったこと

去年10月にリリースされた3rdアルバム『Bremen』を引っ提げて、今年の1月から始まったツアー『音楽隊』。全国10都市14公演に及んだツアーが、豊洲PITでの追加公演をもって実質的なファイナルを迎えた。

ツアーの最後を締めくくる2日目の追加公演は、「パフォーマンス」「ライブ演出」「セットリスト」といった様々なフィルターを通して、米津玄師の確固とした想いが見事に表現されたライブであった。

開演時間を少し過ぎ、この日を待ちわびたファンの前にいよいよバンドメンバーを引き連れて米津玄師が登場。ライブは最新アルバム『Bremen』収録の『ウィルオウィスプ』から幕を開けた。心を揺さぶる伸びやかなビブラートがフロア全体に鳴り響く。続けて披露された『アンビリーバーズ』で、観客のボルテージは一気に爆発。

ライブの頭にこの2曲をチョイスしたことで、私は米津からの強いメッセージを感じた。3rdアルバム『Bremen』は、グリム童話として有名な「ブレーメンの音楽隊」から名づけられたタイトルだ。米津はこの「ブレーメンの音楽隊」から生きる意味を見出し、作品を作り上げた。そしてこの物語を思い出したのは『ウィルオウィスプ』を制作している時であり、『アンビリーバーズ』は『Bremen』で最も伝えたかったことだと、様々なインタビューで述べている。つまり、「ブレーメンの音楽隊」に密接に関係するこの2曲からスタートしたことは、米津の明確な気持ちが表れていたと推測できる。

「今を生きるのはすごく大変だと思う。そして、この先に明るい未来が待ってるとも限らない。でも、どんなに辛いことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、未来へ向かって走り続けていこう。その過程に大切な何かがあるはずなのだから」。そんな米津の眩しすぎるほどにも、真っ直ぐな宣言でライブはスタートを切った。

 

『ウィルオウィスプ』から『アンビリーバーズ』に続いて、『フローライト』や『ミラージュソング』『夜の街路に夜光蟲』など、序盤は『Bremen』収録の最新ナンバーが立て続けにドロップされた。時にはギター、時にはドラム、そして時にはピアノといったあらゆる楽器を駆使し、オーディエンスを熱狂させる。腰をスウィングさせながら歌う姿や袖をまくりマイクを両手に持って熱唱する姿、そして観客に手を差し伸べる意外なパフォーマンスまで、表現者「米津玄師」としてのポテンシャルを大いに感じた。ホントこの男絵になるし、カッコいいわ。

序盤のハイライトは『メトロノーム』だ。オレンジ色に染まった背景を背に、米津の歌うメトロノームが暖かくも優しくフロアへ染み渡っていく。

 

最初のセクションが終わり、MCコーナーに突入。「改めて米津玄師です。」とファンに再度挨拶。オーディエンスは暖かい拍手で挨拶を受け入れる。メンバー紹介の後に、このツアーの恒例となっているという、中ちゃんことサポートギター中島宏士による面白い話が始まった。内容は『東京名物「東京ばな奈」の正式名称の話』。この話の中で、「東京ばな奈」が実は米津と同じ年(1991年生まれ)であることが語られると、観客から「へぇーー!」という驚きの声と拍手が鳴り響いた。また、「昔、豊洲に住んでて、今回の会場である豊洲PITの前を普通にランニングしていた」という米津の話にも、同じく驚かされた。

そんな和やかで暖かい空気に包まれる中、「ちょっと速い曲やるけど、ついてこれるかな?」と米津が一言。「イェーー!」と待ってましたとばかりに応えるお客さんに対し、米津も「付いてこれるかなー!?」と応戦。オーディエンスはさらに大きな声で、その挑発に応える。繰り返される息の合ったコール&レスポンスは、あのRADWIMPSのライブパフォーマンスと重なって見えた。

 

ここから米津は、ギアを更に2段階ほど上げて、まさにキレッキレのライブを披露する。『ゴーゴー幽霊船』やハチ時代の曲『パンダヒーロー』といった初期のナンバーから『Undercover』『Neon Sign』といった最新曲まで、アグレッシブかつエモーショナルなパフォーマンスでファンを圧倒。続いてこのセクションの最後となった、ファンの中でも人気の高い『ドーナツホール』がプレイされ、観客のボルテージがついに最高潮へと達する。

 

「いよいよ残り2曲となってしまいました」。米津はこのライブが終わりに近づいていることをファンに知らせる。 「まさか。」そんな感想が正しかったと思う。まだ5曲ぐらいしかやってないんじゃ。。それくらいあっという間に時は過ぎていた。

ラストは『Bremen』の中でも、重要な役割を持つ2つの曲が披露された。まず1曲目は『ホープランド』。これはまさしく人々に希望を与える歌だ。そんな人々に生きる勇気を与える希望の歌が、緑の光に照らされながら会場内に降り注いでいく。

孤独、劣等感、怒りなど、常に何らかの負い目を抱えて私達は生きている。そんな人々が抱えるネガティブ面を完全肯定し、「いつでもここにおいで」と迎え入れてくれる米津の優しさがそこにはあった。

そして本編ラストを飾ったのは、アルバムでも最後を締めくくる素晴らしきラブソング『Blue Jasmine』だ。まさに理想の世界とも言える『ホープランド』とは反対に、こちらは現実を生きる人々に送るべき純粋なラブソングである。「愛してる」という言葉を包み隠さず素直な気持ちで歌い上げるこの歌は、様々な困難を生き抜いてきた今の米津玄師だからこそ生まれた曲だといえる。アコースティックギターの人間味あふれる音色と、米津の眩しすぎるほどにストレートな歌声と言葉たちが、私達の心に次々と深く刻み込まれていく。ジャスミンの花言葉は「優美」。穏やかで愛にあふれたまさしく「優美」という言葉が似合うこの曲に、いつまでも触れていられたなぁと思った。

ラスト2曲の流れも含めて、非常に良く練られたセットリストだった。前述した『ウィルオウィスプ』から『アンビリーバーズ』で始まったライブ冒頭。『Undercover』から『Neon Sign』の流れや、切っても切れない関係にある『ホープランド』と『Blue Jasmine』を最後にチョイスするあたりに、このライブを通してファンに伝えたいコンセプトが見事に表現されていた。

 

再びの登場を願うファンの手拍子は、一寸の狂いもないほどにぴったりとタイミングが合っていた。これだけ誰一人としてタイミングの狂わないハンドクラップはなかなか珍しい。それだけアンコールを願う、ファン同士の気持ちが通じ合っていたのだろう。

観客の熱い想いに応えて、米津は再びステージへと姿を見せた。するとフロントマンを支える強力なサポートメンバー3人が、ファンから集められた米津への寄せ書き横断幕を持って登場。彼はその寄せ書きを見て、「泣かせるねー」と自らのファンを誇っていた。

アンコールの曲が披露される前に、アルバムタイトルを『Bremen』と名付けた理由、そしてツアー「音楽隊」への想いが語られた。

「あの『ブレーメンの音楽隊』の結末のように、大事なのはどこかへ辿り着くことではなく、その途中で何かを見出すことなのではないか。過去の自分も素晴らしい映画や音楽と出会えたことで、頑張って生きようと思えた。自分も同じように、素晴らしい音楽でファンを未来のどこかへ連れて行きたい。その中で一人一人が何かを見出してくれればと思う。何か次へと頑張っていけるような。そういう作品を今後も作りたい。」と、言葉を1つずつ確かめるかのように、オーディエンスにゆっくりと自らの想いを語り掛ける。その想いは会場にいたファンにも十分届いていたのだろう。なぜなら言葉だけでなく、演奏や構成などあらゆる部分で、彼の思い描く世界がしっかりと体現出来ていたからだ。このライブを通して、米津の言う「何かを見出した」人は多いのではないだろうか。私もその中の1人だ。暗い話が絶えないこの世の中。生きていくことはそんなに簡単なことじゃない。不安や孤独、誰にも吐き出せないコンプレックスだって抱えている。それでも私達は歩き続けなければならない。今日のような素晴らしい出会いがあるのだから。

 

このライブのフィナーレを飾ったのは『こころにくだもの』。会場全員でのシンガロングは、米津の想いをしっかりと受け取ったファンからの回答だったのだと思う。ここで受け取ったメッセージを大切にして、自分もどこかへ還元できるよう頑張りたい。そんなことを強く決意させてくれる貴重なライブだった。

 

米津玄師 2016 TOUR 「音楽隊」@豊洲PIT セットリスト

1.ウィルオウィスプ

2.アンビリーバーズ

3.再上映

4.フローライト

5.ミラージュソング

6.雨の街路に夜光蟲

7.メトロノーム

8.アイネクライネ

9.ゴーゴー幽霊船

10.パンダヒーロー

11.Undercover

12.Neon Sign

13.ドーナツホール

14.ホープランド

15.Blue Jasmine

アンコール

16.Flowerwall

17.こころにくだもの